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【心理学科コラム】「アリとキリギリス」

「アリとキリギリス」

 みなさんはイソップ童話の「アリとキリギリス」を知っていますよね。暑い夏の間,せっせと働いているアリと歌ばっかりうたっている,つまり遊びほうけているキリギリスが登場します。やがて冬がやってきて,夏の間にしっかり働いて十分な貯えがあるアリは平穏に冬を過ごすのですが,何も準備をしなかったキリギリスは冬の寒さの中で苦しむというお話です。いくつかバリエーションがあって,助けを求めたキリギリスをアリが優しく受け入れて,キリギリスが反省し,その後は改心して夏もしっかりと働くようになるという結末と,アリが冷たくキリギリスを突き放し,キリギリスは死んでしまうという結末があります。

 みなさんはどちらの結末を好みますか? どちらも勤勉が大事,目先のことにとらわれずに将来を見据えて今なすべきことをしなさいといった教訓が見て取れるのですが,前者の結末では,それに加えて,困った人には優しくするという寛大さ,間違いを素直に認めて行いを改めることについても描かれているように思います。でもちょっと考えてみてください。キリギリスが夏も勤勉に働くようになってしまったら,夏の夜はどうなるでしょう。虫たちの音楽会がなくなってちょっと寂しくなるのではないでしょうか。

 アリが厳しくキリギリスを拒むというのもよくわかります。というのも,キリギリスは夏の暑さの中で懸命に働くアリたちを小バカにしていたのですから。アリたちにしたらここぞとばかりに"そらみたことか"と言いたくもなるでしょう。「夏に歌ってたんだから冬は踊ればいいだろう。そうすれば暖かくなるよ」なんて,アリが当てつけを言ってやり返すというお話もあります。

 どちらにしても,夏にしっかりと働かないキリギリスは愚か者ということになるのですが,ここでももう一つ,「甘え理論」で有名な土居健郎先生がしばしば言及された新約聖書にある「マルタとマリヤ」のお話(ルカ福音書,10章38-42節)を考えてみたいと思います。

 マルタとマリヤは姉妹で,ある日イエスが彼女たちの家を訪ねた時,姉のマルタはイエスをもてなすために忙しく立ち働いたのですが,妹のマリヤはそれを手伝うこともなく,イエスの足元に座ってその言葉に聞き入りました。しばらくして堪忍袋の緒が切れたマルタは,自分一人に働かせて何も手伝わない妹を叱ってくれるようにイエスに頼みました。するとイエスは次のように答えました。「マルタ,マルタ,あなたはいろいろ心配して気を揉んでいる。しかしなくてならないものは多くはない。ただ一つだけだ。マリヤはそれを選んだのだから,取り上げるわけにはいかない」 

 このお話は,一見するとマリヤが甘えていてそれをイエスが許している(つまり,甘やかしている)ととれるのですが,土居先生は甘えているのは妹に嫉妬している姉マルタの方だとマルタの心理を鋭く見抜かれています(『土居健郎選集8』岩波書店)。さらにマルタはイエスをも動かそうとしていたとそこにあるマルタの甘えを厳しく指摘しています。マルタが妹と自分の違いを受け入れ,生活の中における自分の役割や持ち味といったものについて満足していれば,妹の振る舞いについてそんなふうに怒ることはなかったのではないか,ひょっとするとマルタは家事を手伝う,客をもてなすということを"お姉ちゃんだから"と強要されて身につけ,それに納得していないところがあるのではないかというわけです。お利口にいろいろ動いているマルタにちょっと厳しすぎる気もするのですが,確かにマルタが姉だからということだけでそれを押し付けられていて,それに納得してないとすれば,そこには理解されないといけないマルタの苦しいところがあると思います。

 さて,そこで「アリとキリギリス」に戻りましょう。アリとキリギリスはどうなるといいのでしょうか,そこにはどういう問題があるのでしょうか。キリギリスは夏に汗水たらして働いているアリたちを小バカにしていました。ここには自分と相手を比較し,自分の優位(と自分で思っているところ)を必要以上に見せつけているところがあります。そんなことをしないといけないのは,自分の役割や持ち味といったものに本当に満足していないからと見ることもできます。キリギリスが音楽を奏でるという自分の役割や持ち味(心理学にはアイデンティティという考えがあります)に誇りをもって満足していれば,一生懸命働いているアリたちを小バカにするようなことはないでしょうし,ひょっとするとアリたちの疲れを癒すようないい音楽を奏でてくれるかもしれません。また,アリの方も自分は自分,キリギリスはキリギリスということを受け入れていれば(心理学では自他の区別ということで分離個体化とか自我境界という考えがあります),キリギリスが困った時にやり返すなんてことをしないでしょう。このようにアリとキリギリスがお互いの持ち味を尊重しあうようになれば,変な自慢や嫉妬,攻撃,嫌がらせといったものは起きないのではないでしょうか。

 社会で起きている人と人との間に生じているさまざまな問題,例えばいじめや虐待,攻撃などといった問題もこのようなアリとキリギリス,マルタとマリヤに起きていた問題が関係しています。臨床心理学ではそれらの問題の理解と解消に挑みます。関心のある人は一緒に学びましょう。

 ところで,アリとキリギリスがお互いの持ち味を尊重すればと言いましたが,そうするとキリギリスは冬になったら死んでしまいますね。これは避けなければいけないことでしょうか。自分のことを十分に受け入れていれば,キリギリスは精一杯音楽を奏でて満足して死んでいくのではないでしょうか。そして,それに感動したアリたちがキリギリスの墓にお供えしたりしてくれるかもしれませんね。(でも,アリたちはキリギリスの死んだ体をありがたくいただいちゃうか。でもそれそれでアリの持ち味ですね。)

(心理学科 教員)

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