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【環境科学科コラム】更新しました。

 「自然を守ろう」。こういったスローガンが世の中にはあふれていますが、「自然を守る」とはどういうことなのでしょうか。どんな「自然」をどのように「守る」ことが「よい」とされるのでしょうか。

 身近なところで考えてみると、たとえば、田んぼは自然なのでしょうか。稲作が日本に伝わったのが、縄文時代の終わり頃とされています。ということは、私たち日本人は数千年前から長きにわたって田んぼを作り続けてきたといえます。畔を作り、水路を作り、さらには「ほ場整備」といって、トラクターなどの機械が入りやすくするために大きくて四角い形に田んぼを整え、水の管理もしやすくなるようにポンプやパイプを設置してきました。こんな話を聞くと、とくに後半のほ場整備について知ってしまうと、「田んぼは自然じゃない」と思われるかもしれません。

 しかし、みなさんが知っているように、田んぼには四季折々のさまざまな生き物がくらしています。春先から初夏にかけては浅くて流れのゆるやかな水辺を好むオタマジャクシやメダカの姿が、秋の稲刈り後には落ち穂拾いにいそしむガンやカモなどの野鳥の姿がみられます。また、土の中を掘り返してみれば、年中を通してミミズなどの土壌を元気にしてくれる生き物たちが活躍しています。こうした話を聞くと、今度は逆に、「じゃあ田んぼは自然かな」と思い直される方もいるかもしれません。

 田んぼが自然かどうかについては、ひとまずカッコつきの「自然」ということで置いておくとして、この田んぼで育まれている「自然」を「守る」ためにはどうすればよいでしょうか。自然を守ろうという話が出てきたときに、しばしば聞かれるのは、「人間の手が加わらないようにするのが自然を守るということだ」という意見です。しかし田んぼの場合、人間の手が加わらないようにしてしまうと、水がなくなり、草も生えっぱなしになるので、田んぼだったのかどうかもわからないただの荒れ地のような状態になっていきます。この状態は耕作放棄地と呼ばれており、田んぼでくらしていた生き物たちのすみかが失われてしまう原因のひとつとされています。つまり、田んぼの場合は人間の営みを排除してしまうと、「自然」の部分が失われてしまうのです。

 田んぼのように、人間の営みによって維持されてきた自然のことを、専門的な用語では二次自然といったりします。先ほどカッコつきで置いておいた「自然」は、二次自然のことです。二次自然には田んぼ以外にも、里山や草原などがあります。昔から自然と人間との生活領域が近かった日本では、人間の手によって維持され続けてきた二次自然を好む生き物が多いのです。しかし近年、そうした生き物のなかには、メダカのように絶滅危惧種としてレッドリストに記載されているものも少なくありません。

 二次自然としての田んぼをどのように「守る」ことができるか。これはなかなか難しいところです。なぜなら、田んぼは農業という経済活動の場として利用されているため、それと切り離して田んぼを「守る」ということはできないからです。田んぼを「守ろう」とするとき、私たちは農家の人びとのくらしや今の農業のあり方といった、社会的なものごととの関わりのなかから、解決策を見つけていかなくてはならないのです。

 環境についての研究を、あえて社会に焦点を当ててやってみる。これが環境社会学という学問です。ずいぶん変わっていますが、それゆえの面白さもたくさんあります。「生き物が大好き!」という学生さんにこそ、環境社会学の楽しさを知ってもらうのだというのが、私のひそかな企みです。

環境科学科教員:谷川

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